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複利効果の実態:これだけは押さえておきたい資産形成のポイント 第3回(全4回)

 

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後藤 順一郎

アライアンス・バーンスタイン株式会社
プロダクト・マネジメント部 ディレクター
DC推進室長 兼 アライアンス・バーンスタイン未来総研ディレクター



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2014年9月1日

 

1.     リターンがリターンを生む複利効果

これまで第1回では資産運用における「時間分散効果」について、第2回では「ドルコスト平均法」について一般的な認識の問題点を指摘してきた。時間分散効果やドルコスト平均法のメリット以外にも、販売の現場では、長期投資のもう一つのメリットである「複利効果」が強調されることが多い。「株式投資は複利効果が高いので、長期で大きく殖やしたい方にお勧めです」「株式は複利効果が非常に大きく、少ない元手で目標額を達成できます」などと言われるが、これに関しても言葉足らずの印象を受ける。

そこで第3回では、リターンがリターンを生む「複利効果」の実態を探りたい。まず、複利効果とリスクの関係を検証し、そして複利効果を享受するための現実的な対応や、行動ファイナンスの観点から複利効果の有効性を考察する。
 

2.     複利効果の落とし穴

複利効果とは、元本に利息を加えた元利合計が新たな元本となり、継続的に運用されて元本が膨らんでいく効果であり、厳密には「複利リターンと単利リターンの差」で表される。この複利効果の威力を説明するグラフとしては、図表1のようなものがよく使われる。左側は100万円の元本が毎年“一定”のリターンを生んだ場合の30年間にわたる資産額の推移、右側は30年間で3,000万円を貯めるために必要な運用リターン別の投資元本の金額を示している。
 

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左側のグラフでは、運用リターンが高いほど、時間の経過とともに最終資産額が指数関数的に大きくなっている。右側のグラフでは、運用リターンが高いほど、3,000万円の資産を形成するのに必要な投資元本は極端に少なくなっている。まさにこれが複利の効果である。確かに、これを見る限り、複利効果の大きいハイリターン商品への長期投資は魅力的に思えるが、果たして本当にそうなのだろうか。

実はこれらの計算において大きなポイントは、毎年“一定”のリターンを想定していることである。つまり、これらの数字は、リターンのボラティリティ(リスク)がゼロという現実にはあり得ない前提に基づいているのである。では、リスクを考慮した場合の複利効果がどのようになるかを理解するため、図表2に示した簡単なクイズに答えていただきたい。


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資産Aの複利効果は0.8%、資産Bは0.5%、資産Cは▲2.8%となり、正解は資産Aである。このことは、リスクの高い資産ほど複利効果は小さく、場合によってはマイナスになることを示している。まさにリターンを“一定”とした複利効果が「絵に描いた餅」であるということだ。

クイズは限られたケースのみについての分析であるため、複利効果とリスクの関係をより詳しく調べるべく、モンテカルロ・シミュレーションという統計的な分析手法を用いて擬似的な運用(投資元本は100万円)を行った。図表3は、投資期間を30年間とし、擬似運用の結果をリスク別に最終資産額の分布(上位5%、上位25%、中央値、下位25%、下位5%)を示したものである。リスクが0%の場合は当然、最終資産額はいずれのケースでも同じで432万円となる。一方、リスクが20%と高い場合は、中央値が254万円で、上位5%のケースは1,393万円と元本が約14倍になる半面、下位5%のケースは46万円と元本が半分以下になり、明暗が極端に分かれる。このように最終資産額のブレ幅はリスクに比例して大きくなるが、最も重要なのは、標準的な結果を表す中央値である。その中央値はリスクが増加するにつれ徐々に低下しているが、これはどのように解釈すれば良いのだろうか?
 

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詳細をみるためにグラフの下に、中央値が実現した際の複利効果を示したが、これもリスクに反比例して下がっており、クイズと同じ結論となる。次に、年率化した複利リターンを見て欲しい。この中央値の複利リターンは、ある意味でリスク考慮後の複利リターンと解釈できる。つまり、リターンが5%でもリスクが20%の場合は、リターンが3.15%でリスクが0%の場合と同じ複利リターンしか期待できないということである。このように、リスクがある場合の複利効果はかなり割り引いて考える必要がある。

簡単なクイズと擬似運用を通じて複利効果とリスクの関係を見てきたが、さらに数学の観点からこの関係を検証してみたい。図表4は、年率リターンを5%とした場合に、複利リターンの期待値が時間の経過とともにどう変化するかをリスク別に示したものである(連続時間でリターンが対数正規分布に従うと仮定)。

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擬似運用の結果と同様、このグラフからもリスクが高いほど複利リターンの期待値が下がることが分かるが、このグラフからはさらに、投資期間が長いほど同リターンの期待値が減少することも確認できる。また、複利リターンの期待値は一定値に収束しており、この収束値が実は中央値である。したがって、擬似運用ではリスクがある場合の標準的な複利リターンを中央値から逆算したが、この考え方は数学的にも正しかったことになる。

 

3.     複利効果を効率的に享受するための現実的な対応

リターンが5%でリスクが無い金融商品があれば苦労はないが、実際には預金金利はゼロに近く、そうした夢のような商品は存在しない。したがって、ある程度の資産を形成するには、リスクを取ってでも複利効果を狙っていくしかないのである。

しかしながら、複利効果を効率的に享受するには、漫然とリスク性資産に投資するだけでは不十分で、何らかの工夫が必要になる。私はそのヒントが典型的な長期投資家である年金基金の運営方法にあると考えており、以下では、年金基金が実施している運営方法の中から個人投資家が応用できそうなものを2つ紹介する。

①ダウンサイドの回避

これまでの分析が示すように、リスクが高いと複利効果は大きく損なわれるため、リスクを極力引き下げることが大切で、それには分散投資の徹底が必要である。ただ、複利効果を効率的に得るには、単純に多くの資産・商品に分散するのではなく、ダウンサイド(下方リスク)の回避を強く意識する必要がある。なぜならば、リスクの高い資産から複利効果を得にくいのは、そうした資産が時折大きな損失をもたらすからである。例えば、100万円を2年間運用する場合、1年目のリターンが
▲10%、2年目のリターンが+10%であれば、最終資産額は99万円でほぼ変わらないが、1年目が▲50%、2年目が+50%の場合は、算術平均リターンが0%であるにもかかわらず、最終資産額は75万円に減ってしまう。したがって、アップサイド(上方リスク)もダウンサイドも等しく扱う標準偏差のみをリスクとして捉えるのではなく、VaR(バリュー・アット・リスク)のような下方リスク指標をより意識した資産配分を検討することが望ましい。具体的には、下方リスクを限定するオプション(日経225オプションは個人投資家でも利用可能)や、株式が大きくマイナスになる際にプラスとなる特性を持つ商品(商品先物)などの活用が有効だと思われる。

②大幅なマイナス発生時の追加投資

大きなマイナスを被った際に、追加投資を行って投資元本を回復させることも効果的である。大幅なマイナスが発生するとその後のリターンの回復が難しい理由の一つは、投資元本が著しく減ることであるため、それを元に戻せばその後のリターンが得られやすくなる、という発想である。年金基金では実際、積立不足が一定水準以上となった場合、運用が計画どおりに進まなくなる可能性が高くなるため、軌道修正という観点から、追加掛金を拠出し積立不足を解消することが求められる仕組みとなっている。この運営方法は、見方を変えれば“意図的”に投資元本の変動性、つまりリスクを削減し、複利効果を高めていると言うこともできる。したがって、年金基金と同様、個人投資家にとっても、大きなマイナスが生じた時点で追加投資をすることは有効だと思われる。


4.     行動ファイナンスの観点から見た複利効果

ここまで読まれた読者の中には、投資信託に投資するなら、複利効果を狙った継続投資型よりも分配金受取型の方が良いと思った方もいるかもしれない。確かに、最近流行のエマージング株式やエマージング債券+通貨選択のようなハイリスク・ハイリターン型の投資信託“のみ”に投資するのであれば、複利効果を狙わず、分配金受取型も決して間違った選択ではないと言えるだろう。

しかしながら、私が今回伝えたいメッセージは、リターンを一定と想定した複利効果は過大に評価されているため、リスク性資産で運用する場合はそれを割り引いて考える必要があるということであり、複利効果そのものを否定しているわけではない。そして、複利効果を効率的に得るには、個人投資家も機関投資家に習い、ダウンサイドを抑制するための分散投資の徹底や、大きなマイナスを被った場合の追加投資といった工夫が必要であると考えている。

行動ファイナンスの観点からも、複利効果を得るため継続投資型へ投資することは、適切な資産形成を促すという点で理にかなっている。これは、主に「心の会計」「あぶく銭効果」「決定麻痺」という3つの要素によって説明できる。

①心の会計

「心の会計」とは、お金に色はついていないが、心の中でお金を勝手に分類し、その分類に応じて扱い方を変えるという行為である。最も一般的な例としては、子どもの教育資金として学資保険に入ったり、預貯金があるのにローンを組んで自動車を購入することなどが挙げられる。合理的な人であれば、わざわざ学資保険という使い道の制約された商品に投資する必要はないし、また預貯金があるのならローンをその分減らして車を買うのが得策だろう。しかし、人間は教育資金、車の購入資金、生活資金といった具合にお金を分類する傾向がある。複利効果を狙うべく継続投資型の商品に投資する場合、心の会計でいう「投資」の財布から資金が出ることはないため、当初のリスク許容度のままで投資を継続しやすいというメリットがある。いったん分配金を受け取ると、「投資」の財布から資金が出てしまい、「生活費」等の別の財布に入る可能性が高く、それを再度投資に向かわせるには相当の労力を要する。

②あぶく銭効果

「あぶく銭効果」とは、人は利益を得ている状況においては通常リスク回避的になるはずだが、ギャンブルなど正当な労働ではない行為によって得た利益に対しては、逆にリスク追求的となることを指す。複利効果によって殖えたお金は、リターンがリターンを生んだものであり、正当な労働による利益とはみなされにくく、リスク性資産に向かいやすい。継続投資型は、この点において、ともすれば預貯金のような安全資産に向いがちな資金を、適切なリスク水準の資産へ継続的に投資できる仕組みであると言える。

③決定麻痺

分配金受取型の場合、分配金を受け取るたびに、投資家が消費に回すのか、それとも再投資するのかその都度適切に判断できるのであれば、問題はない。一方で、現在の消費と将来の消費のための貯蓄はトレードオフの関係にあるため、分配金が入るたびに、投資家は「葛藤」を感じてしまう。その結果として意思決定の先送り、つまり「決定麻痺」が生じ、現状維持から分配金はそのまま預貯金に放置されてしまう可能性が高くなる。継続投資型であれば、投資家が葛藤を感じることはなく、この問題を回避できる。

このように、行動ファイナンスの観点から見ると、複利効果の享受を狙った継続投資型の投資信託の活用は、結果的に適正なリスク水準を保った長期投資を促進する働きをする。結局、複利効果を過大に強調した現在のアドバイスには改善の余地があるものの、長期の資産形成において複利効果が重要な役割を果たすことは事実である。(第4回に続く)

 

出所:『投資信託事情』 2011年5月号(イボットソン・アソシエイツ・ジャパン株式会社)




 

当資料は、2014年7月31日現在の情報を基にアライアンス・バーンスタイン株式会社が作成した資料であり、いかなる場合も当資料に記載されている情報は、投資助言としてみなされません。当資料は信用できると判断した情報をもとに作成しておりますが、その正確性、完全性を保証するものではありません。また当資料の記載内容、データ等は今後予告なしに変更することがあります。上記の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。アライアンス・バーンスタインはアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーとその傘下の関連会社を含みます。
 

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