2016年

野球選手の引退後のキャリアに寄り添う

2016.10.31

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現役で稼げる時間の短いプロ野球選手は、特殊な職業と言える。 引退後の長いライフプランを幸せに過ごすために、大切なことは何か。
プロ野球選手のキャリアと資産形成をテーマに、 福岡ソフトバンクホークスの代表取締役社長である後藤芳光氏と弊社代表取締役社長の山本誠一郎が語り合った。

引退後に華やかに活躍している方はほんの一握り

山本後藤さんとは公私にわたりご縁をいただいていることもあり、今回このような機会をいただきました。まずは後藤さんと野球とのつながりを聞かせていただけますか。

後藤父親が読売新聞に勤めていたこともあって、生まれた時からジャイアンツ一色の野球好きの家庭で育ちました。私自身も小学生の頃は、リトルリーグで野球をしていましたので、野球は宝物のような存在です。その頃、雲の上の人であった球団会長の王さんと一緒に仕事しているのかと思うと、今でも不思議な気持ちになります。

山本王さんとはよくお会いになるのですか。

後藤福岡のスタジアムには、ネット裏の地下に管理人室があって、そこでよくお会いし、試合中ずっと解説を聞いています。選手一人ひとりのことはもとより、野球全般について前向きな課題をいただき一番勉強になる時間です。野球は合理性だけで割り切れるものではないですから、選手が抱える重圧というものは、本当に大きいと感じさせられます。

山本そういった選手をマネジメントするのも大変な仕事ですね。
リオデジャネイロ・オリンピックでは、多くの競技で日本人選手が大活躍しました。選手はメダルを取るために、恐らく想像を絶する努力を続けてきたのでしょう。ただし、その見返りはあまりに小さい。プロ野球は比較的、成果と報酬が見えやすいと思いますが、選手の実際の生活ぶりはどうなのでしょうか。

後藤職業を持ちながら続けるアマチュアスポーツと比べて、プロスポーツの難しさは稼げる時間が短く、人生の見通しが立てにくいところがあります。野球選手であれば、10年からせいぜい20年。第二の人生の方がよっぽど長いわけです。
プロ野球選手が生活設計をする場合には、2つの考え方があると思います。1つは、短い現役時代で一生の生活資金を蓄えること。もう1つは、野球を最初のキャリアとして捉え、次のステージでは別の報酬を得る想定でライフプランを見渡すことです。ただし、ほとんどの選手は前者のことしか考えていません。それくらい強い思いがなければ、野球で自分のパフォーマンスを100%出しきれないからです。

山本厳しい世界ですね。

後藤結果として見ると、多くの選手が必ずしも引退後に幸せな暮らしをしているわけではありません。王さんとの忘れられない話があります。福岡での王監督の引退パーティーを企画した際のことです。せっかくの機会ですから現役時代のお仲間もお呼びしましょうと王さんに提案しましたが、〝できればお呼びしないでください〞とおっしゃるのです。招待状を出せば、きっと飛んできてくれるけど、往復の交通費の負担だけでもしんどい仲間も多いのだからというのです。
王さんの気配りはすごいなと思いながら、一方で、一時代を築いた選手であっても、引退後に華やかに活躍している方はほんの一握りであると、気付かされました。選手をマネジメントする球団として、引退後の生活設計を支援するのは必ず取り組まなければいけないテーマだと考えるきっかけになりました。

山本選手のキャリア形成上、どのようなサポートをしているのですか。

後藤できることはなんでもやってみようと考えています。例えば、入団した選手には野球人としての立ち居振る舞いについての新人研修を行います。その一環として金融教育を実施しています。ホークスは高卒の選手を多く採用する傾向があります。生まれてからずっと野球一筋で、銀行になんか行ったことがないし、お金を持ったこともない人たちばかりです。金融というもののイロハのイを教えてあげなければいけません。入団契約金は、普通の職業の人にとっては退職金にあたるものかもしれないよといった指導もしていますが、それでもフェラーリを買っちゃう選手もいるわけです(笑)。

後藤芳光(ごとう・よしみつ)

福岡ソフトバンクホークス株式会社代表取締役社長兼オーナー代行(球団統括本部長)。ソフトバンク株式会社専務取締役。ソフトバンクグループ株式会社常務執行役員財務部長。1963年神奈川県出身。一橋大学卒業後、安田信託銀行株式会社(現みずほ信託銀行株式会社)を経て、2000年にソフトバンクの財務部長として入社。“ソフトバンクの金庫番”として、数々のM&Aで活躍。自宅は鎌倉。多忙な毎日でも「職場と自宅は離れていたほうがよい」との持論で、朝食は「妻と娘二人と一緒に取るのを欠かさない」。

「野球選手として活躍するととともに、人生の成功者であってほしい」(後藤)

自由契約の選手には全員、ソフトバンクの仕事をオファー

山本これからスポットライトを浴びて活躍を夢見る新人選手に、セカンドキャリアの話は伝わるのでしょうか。

後藤それは難しいところですね。本当は若い選手には〝野球選手として活躍するとともに、人生の成功者であってほしい〞と説きたいのですが、私だけではなかなか強調して言えないのです。監督やコーチ達は、〝今は野球に専念させてあげたい〞と考えています。
まったくの道理だと思います。そういった現場のマネジメントも尊重するうえで、自分の中に葛藤はあります。

山本引退する選手にも、何らかのサポートはされているのですか。

後藤自由契約の選手には、全員にソフトバンクグループの仕事をオファーしています。残念ながら、年間に7、8名の選手には戦力外通告を出さなければなりません。出すのであれば早ければ早いほど、違うチャレンジを考えることができるはず。その1つとして提案しています。ソフトバンクグループとしても、こうした人材を貴重な戦力だと捉えているからこそのプランです。
おかげさまでソフトバンクグループは、就職先の人気ランキングで上位に位置するほど、入社希望者の多い会社になりました。いまではさまざまな採用形態を持っています。一芸に秀でた人を採用する枠もあります。そういった意味で、プロ野球に入ることができた人は、すでに勝者です。野球を通じて勝負の勝ち方を知っている。努力の仕方を知っている。目標の意味をよく分かっている。こういった人は、新しいチャレンジに成功できる確率が非常に高いと思います。

山本これまでの実績はいかがですか。

後藤真摯にオファーを出すのですが、現実は年に1人来てもらえればいい方です。〝野球しか知らない人間に、とても普通の社会人は務まらない〞と自分をとても卑下されるのです。どうしても野球を続けることに意識が向くのでしょう。トライアウトに参加しプロへの再チャレンジを狙うのはまだしも、独立リーグに進むと厳しい報酬は覚悟しておかなければいけません。野球選手は若い頃に結婚し、20代前半で家族を持つ人も多くいますが、家族を養うのも難しいレベルです。野球の夢を追うことは美しいけれど、別の選択肢もあることは知ったうえで、これからの長い人生を考えてほしい。選手が若い頃から、折に触れて話をしたいのですが、もどかしいところです。

山本ニュースで戦力外通告の選手の進路を見ることはありますが、いち外野としては、〝あなたの人生はこっちのほうがよいのでは〞とついつい余計なことを考えてしまいます。

後藤戦力外通告の直後は、きっと頭も真っ白になっているでしょうから、これからはグループの仕事をオファーするにしてもタイミングを考え、時間をかけて相談に乗りたいと思っています。いままでは、〝何でもいいからやってみないか〞と話を持ち掛けていましたが、選手は社会人経験もないわけですし、総花的にソフトバンクグループの仕事といってもイメージが湧かないのかもしれません。もっと、選手一人ひとりの考えや個性を分析して、具体的な仕事を提案するのも、今後の課題です。例えば、社交的な人であれば営業を、緻密な計算が得意であれば管理部門の仕事を、人によっては球団の職員として野球と関わるのが向いているかもしれません。

山本誠一郎(やまもと・せいいちろう)

アライアンス・バーンスタイン株式会社代表取締役社長。安田信託銀行株式会社(現みずほ信託銀行株式会社)を経て、1999 年サンフォード・C・バーンスタイン社(現アライアンス・バーンスタイン・エル・ピー)に入社。2012年3月より現職。

「野球選手の資産運用についても、何らかの取り組みをしていきたい」(山本)

税理士と資産運用のプロがタイアップして選手に提案

アライアンス・バーンスタインでは、個人のハッピー・リタイアンメントの実現に向けたさまざまな取り組みを続けている。特設ウェブサイトの運営はもとより、2011年には社内プロジェクトメンバーを中心に書籍「女子の幸福論」(ダイヤモンド社)を発行した。「秘書さんに読んでみたらと薦めたら、他の女性社員からも貸してほしいとの声もあるほど、関心が高いです」(後藤氏)。

山本弊社アライアンス・バーンスタインでは、個人のハッピーリタイアメントを資産運用の側面から応援したいと考えています。米国NBAでは、生涯年棒60億円の選手であっても、引退後5年以内に自己破産する確率が60%とのデータもあります。そういった意味で野球選手の資産運用についても、何らかの取り組みができればと考えています。

後藤米国の傾向として報酬が多い人ほど、生活にレバレッジをかけて破産リスクを負いがちなのかもしれません。日本でも、過去にはそういったケースはありましたが、最近は非常に減っていると思います。一定の成功を収めた選手ほど、奥さまが財布の紐をしっかり握っていることが多いです。意外と小遣い制の選手も多いんですよ。富裕層の選手に対する資産運用についてのアドバイスは、まだ球団が関与できていない部分です。

山本資産運用サービスについて、金融機関へのリクエストはありますか。

後藤選手は個人事業主です。しかも生活の不安定な事業主です。そういった人にライフプランと運用プランを分かりやすく、しかもタイミングよくアドバイスしていただくと本当にうれしいです。選手は税務申告が発生するため、お金まわりのことは顧問税理士に相談していると思います。例えば、税理士の方と資産運用のプロがタイアップして、選手に提案することが効果的かもしれません。

山本貴重なご意見をいただきました。後藤さんは球団統括者でありながらソフトバンクグループの財務責任者でもありますよね。とても大きな二足の草鞋を履きながら、それぞれで結果を出すのは、なかなかできることではありません。最後に何か秘訣や心がけを教えていただけますか。

後藤球団前社長の笠井和彦さんからの教えが大きいと思います。もともと私は、安田信託銀行の出身です。山本さんの2年後輩にあたりますね。会長の笠井さんがソフトバンクの取締役に就任し、当時30代半ばで新しいチャレンジを望んでいた私を誘っていただいたのがご縁です。笠井さんとは球団買収の時から関わっていたこともあって、後継者として指名を受けました。〝あなたがそのまま引き継げばいいよ〞という遺言を聞いて、そのまま権限委譲するのがマネジメントスキルの最も大事な点だと知りました。権限を自分で握りつぶすことなく、きれいに適材適所に落としていく。後はしっかりフィードバックを受けながら大所高所で判断する。まだまだ笠井さんの領域にはいないけれど、複数の部門をマネジメントしていくことはできると信じています。惜しくも笠井さんは3年前にご他界されましたが、私にとって第二の親にあたる存在です。

山本後藤さんの活躍ぶりは多方面からずっと伺っていたのですが、そのモチベーションを垣間見ることができた気がします。本日はありがとうございました。

(対談日:2016年10月3日)

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